「病院の赤字」は努力不足なのか?7割の国立大病院が赤字のなか、広島大学病院が「10億円超の利益」を出せたワケ《病院長を直撃》
という記事を見かけた。
大学病院の経営には関わったことはないけれど、
医療業界や病院運営の改善には(少しだけだけど)関わったことがあって、
色々書いてみようと思う。
そもそも国立大学病院とはどういう立ち位置なのか。
国立大学の役割は、地域の教育者と医療従事者の輩出
国立大学というのはご存知の通り戦後、
旧帝国大学(いわゆる「旧帝大」と呼ばれる7つの大学)から始まり、
いまは各都道府県に1つ以上国立大学が設置されているわけだけど、
47都道府県に必ずある国立大学に必ず備わっている機能(学部)というものが2つある。
1つは、教育学学部。
そしてもう1つは、医学部。
国立大学には必ずこの2つの学部が備わっていて、
それは国立大学というもの自体に求められる役割が、
地元地域の「教育者」と「医療従事者」を育てるというものがあるからだ。
その中でも、7つの旧帝大と、
それ以外の国立大学では求められる役割が異なる。
旧帝大は、研究者を育てる。
それ以外の国立大学は現場従事者を育てる、というもの。
これは国が国立大学の中でもどこに、
どれだけの研究予算を投下しているのかを見ると一目瞭然。
お金の分配が人間のホンネだよね、という話。
教育者でいうと、「教育学」を研究するのが旧帝大系の教育学部の役割。
なので学校の先生になる人は旧帝大の教育学部の中だと数えるほどしかおらず、
その大半は教育とは別の道に行くか、
教育の道に残るとすると大学院に進学をして「教育学」を研究する。
医学部においても同様で、
医学部医学科はだいたい国立大学だと多くて100名。
なので毎年100名近くずつ地元のお医者さんが増えていくという構図。
旧帝大の医学部医学科でいわゆる「臨床」と呼ばれる現場に行く人もいるけれど、
基本的には「医学」という学問を研究する研究者の道を進む人が大半。
教育者も医学者も、あとは弁護士なんかもそうだけれど、
資格者としては優秀ではあるがその学問自体を研究する役割というのは、
旧帝大クラスの地頭がないと難しいということだろう。
まあそうだよねと思う。
広島大学は西の雄?
さて、とはいえ国立大学の中にも色付けがあるわけで、
教育学の領域でいうと東の筑波大学、西の広島大学という
2つの大きな大学が存在する。
広島大学は最新の情報だと、教育学部の定員は315名となっており、
これは国立大学の中だとかなり多い。
もともと広島大学の教育学部は、
地域の教育者を輩出する学校が統合されて成り立ったという背景がある。
※ネットで調べてみると、以下の内容が出てくる
広島高等師範学校、広島文理科大学、広島師範学校、広島青年師範学校、広島女子高等師範学校の5校は、1949年に広島大学が設置される際に、その教育学部の前身となりました。これらの旧制教育機関はそれぞれ教員養成を目的としていましたが、学制改革を経て、それらの機能を包括する形で広島大学教育学部が誕生しました。
これを機に、医学部についても調べてみた。
医学部医学科の定員は90名と一般的で、
それを考えると医学科自体は旧帝大以外の国立大学と
同水準ということになろう。
広島大学医学部は、1945年8月に設立された広島県立医学専門学校が直接の起源であり、戦後の学制改革を経て1948年に広島医科大学(新制)が誕生、そして1953年8月に広島大学医学部として設置・移管されました。
成り立ちを考えると、
源流は「広島県立広島病院附属医学講習所」(1945年設立) として、
戦後の医師不足解消のために設立されたということだろう。
原爆被害を受けた地域であり、
地域医療・公衆衛生の立て直しが社会的急務だったのが背景だと想定される。
ちなみに、戦前に設立された旧帝大以外の医学系でいうと、
東日本だと千葉大学、西日本だと熊本大学などが有名。
やっぱり僕らが受験生時代も、医学部医学科に進学することを考えると、
旧帝大以外の国立大学でいえば千葉大や熊本大は一目置かれていたよねと。
広島という原爆被害のエリアを考えると、
国際的な役割として果たすべき使命というか、
求められるミッションは大きいのだと思う。
医療の質と大学病院の経営
これは冒頭に引用した記事から考えることだけれども、
この文脈で簡単に言及することは難しさを孕む。。
僕自身は医療業界に従事するわけでは全くないけれど、
心から医療業界の方々を尊敬している。
経営目線でいうと、国立大学病院という背景のある病院で言えば、
求められる最大のミッションは「地域の医療従事者の輩出」ということであり、
その基準を作るという上での「病院としての医療の提供」ということになる。
民間の総合病院とは背景が異なるので、
単純に売上と利益という目線だけで見切れないとは思うが、
「地域医療を継続する」という観点では赤字が続くというのは
業界として健全でないことは確かだろう。
記事の中にも「国立大学病院全体は285億円の赤字」という記載もあり、
特に地方にいけばいくほど、その側面は強くなると思う。
そういった背景を踏まえて単純に「医療の質」という軸以外に、
「データの利活用」という軸が加わったのは大きな進展だと思う。
単純な「回転率」とか「来院数」とかではなく、
原価計算の範囲を民間の会社の経営レベルで導入し、
採算をみるところからスタートしたというのは経営努力の賜物だと思う。
(言及しておくが本件とは全く無関係なので、僕のただの個人的な見解を書いているだけです)
未来の医療従事者(特にドクター)を育てる役割から考えると、
次世代に対してそのインセンティブを設計していくという考え方も重要で、
中期的には労働人口が減少していく日本において、
業界として地位を上げる努力をしていくのは大事な取り組みであろう。
*
話は変わるが、フラクタルとしても、
医療業界に限らずコンサルティングで関わった業界には、
恩返しも兼ねてその業界の地位を1ミリでも向上させられるようにありたいと心から思っている。
逆にいうと、地位を向上させてはいけない会社や業界には、
関わらないという矜持を持ち続けてありたい。
そんなことを思いながら、
この記事を眺めていました。
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