時代に流されない「原理原則」を経営者に突きつけるメディア『縮尺』。理念経営のための確かな「物差し」を、フラクタル社メンバーが思考の現場からお届けします。
「あの人がいないと回らない会社」は、本当にダメなのか。

あの人が休むと、この仕事止まっちゃうんだよね。
会社で働いていると、一度くらいはこんな会話を聞いたことがあると思うんです。
その人しかやり方を知らない。
その人しか判断できない。
その人に聞かないと、どこに何があるのかわからない。
いわゆる「属人化」というやつです。
そしてその属人化は、だいたい悪い意味で使われることが多くて、
属人化をなくそう。
業務を標準化しよう。
マニュアルをつくろう。
誰でも同じように仕事ができる状態にしよう。
確かにその通りだと思うところはあります。
私自身、会社の中のいろいろな業務に関わっていると、
「これ、この人が明日いなくなったらどうするんだろう」
と思うことがある。
やり方がその人の頭の中にしかない。
ファイルの場所もわからない。
取引先とのこれまでの経緯も、その人しか知らない。
そういう仕事は、やっぱり怖い。
だから、できるだけ共有した方がいいし、仕組みにした方がいい。
でも最近、属人化について考えていて、ひとつ引っかかったこと。
本当に「あの人にしかできない仕事」は、全部なくした方がいいんだろうか。
「あの人しか知らない」と「あの人だからできる」は違う。
たとえば、請求書の発行方法を一人しか知らない。
これは、できればなくした方がいい属人化だと思う。
やり方を整理して、必要な情報を共有しておけば、
他の人でもできるようになる。
では、「あのお客様への対応は、○○さんが本当にうまい」
はどうだろう。
相手のことをよく知っていて、ちょっとした言葉の変化にも気づく。
過去にどんなやり取りがあったかも覚えている。
何か問題が起きても、マニュアル通りに対応するのではなく、
「この人にはこうした方がいい」と考えて動ける。
これもある意味、その人に依存している。
私はこれまで「属人化」として全部まとめて考えていたけれど、
「その人しかやり方を知らない」ことと、
「その人だからできる」ことは、まったく違うんじゃないか。
前者は、仕組みにした方がいいし、
でも後者は、むしろ会社にとって大事なものかもしれない。
仕事には、マニュアルにできることと、できないことがある
採用の仕事をしていても、そう思う。
候補者に連絡する方法は、仕組みにできる。
いつ連絡するのか。
何を伝えるのか。
どこに記録するのか。
こういうことは、誰が担当してもわかる状態にしておいた方がいい。
でも、
「この候補者、少し不安そうだな」
「このメールには、いつもの文章をそのまま送らない方がいいかもしれない」
「今回はメールじゃなくて、電話した方がいいかもしれない」
みたいな判断は、なかなかマニュアルにはできない。
もちろん、
「こういう場合は電話する」
というルールをつくることはできる。
でも、人の気持ちはそんなにきれいに分類できない。
相手の表情や言葉、これまでのやり取りを見ながら、
「今はこうした方がいい」と判断する。
そこには、その人がこれまで積み重ねてきた経験や失敗、
相手との関係性、その人なりの感覚がある。
それまで全部、
「誰でも同じようにできるようにしましょう」
としてしまったら、仕事は本当に良くなるんだろうか。
仕組み化すると、会社は強くなる
私は、仕組みをつくることはとても大事だと思っている。
むしろ、仕事をしていると「これ、仕組みにできないかな」と考えることは多いし、
誰か一人が抱え込まなくてもいいようにする。
同じことを毎回ゼロから考えなくてもいいようにする。
誰かが休んでも仕事が止まらないようにする。
仕組みがあるから、人はもっと大事なことに時間を使える。
だから、
仕組みにできるものは、できるだけ仕組みにした方がいい。
ここは変わらない。
ただ、仕組み化の目的は、
「人を必要なくすること」ではない
と思うんです。
むしろ逆なのかもしれない。
誰でもできる作業を仕組みにすることで、
その人にしかできない判断や、その人だからつくれる関係、
その人だから生み出せる価値に、もっと時間を使えるようにする。
そのための仕組み化なんじゃないか。
「誰がやっても同じ会社」は、本当に強いのか
業務改善をしていると、
「誰がやっても同じ結果になる」
という状態は、ひとつの理想として語られる。
確かに、作業についてはそうだと思う。
でも会社全体まで「誰がやっても同じ」になってしまったら少し寂しい。
「あのお客様は○○さんだからずっとお願いしてくれている」
「あの仕事は○○さんがいるから、うちにしかできない」
「あの人がいるから、この会社で働きたい」
そんなものまでなくす必要はないと思う。
むしろ、そういう人がたくさんいる会社の方が、私は強いんじゃないかと思う。
なくしたいのは「属人性」ではなく、「ブラックボックス」なのかもしれない
そう考えると、
「属人化をなくそう」
という言葉にも、少し違和感が出てきた。
会社が本当になくしたいのは、
人に依存することそのものではなく、仕事がブラックボックスになっている状態
なんだと思うんです。
その人しか知らない情報は、共有する。
その人しかできない作業は、できるだけ他の人にもできるようにする。
判断するときに必要な考え方も、できるだけ言葉にして残す。
でも、その上で、
「あの人だからできる」
は残っていていい。
むしろ、残したい。
人には、それぞれ違う経験がある。
得意なことも違う。
人との関わり方も、ものの見方も、考え方も違う。
その違いまで全部なくしてしまったら、
会社に人が集まって働く意味も、少し薄くなってしまう気がする。
だから、「あの人がいないと回らない会社」は危ない。
これは、たぶん間違っていない。
でも、「あの人じゃなきゃできないことがある会社」は、悪くない。
この二つは、似ているようで全然違う。
目指したいのは、
誰かが休んでもちゃんと仕事は回る。
その人が戻ってきたら、やっぱりその人にしか出せない価値がある。
そんな会社なのかもしれない。
人に依存しない会社をつくることと、
人が誰でもいい会社をつくることは違う。
仕組みをつくる仕事に関わるからこそ、
その違いは忘れないでいたいと思っています。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
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